救急車

私は救急救命士の田中です。もう10年以上この仕事をしていますが、これまでに何度も死と隣り合わせの現場を経験してきました。しかし、その中でも最も恐ろしい体験は、ある夜に起こった救急車の幽霊のことです。

その日は深夜1時頃のことでした。私は救急隊のリーダーとして、救急車に同乗して現場に向かっていました。現場は人気のない住宅街の一角で、通報によると、一人の男性が心肺停止状態にあるとのことでした。

私たちはすぐに現場に到着し、男性の心肺蘇生を開始しました。しかし、男性は既に呼吸も心拍も停止しており、蘇生は困難でした。私たちは男性を救急車に乗せ、病院に搬送しました。

病院に到着後、男性は集中治療室に運ばれましたが、そのまま亡くなりました。男性の家族は悲しみに暮れていました。

私たちは現場から帰ろうと救急車に戻ると、車内から不思議な音が聞こえました。それは、男性の心臓が鼓動する音でした。私は耳を疑いましたが、間違いなく心臓の音でした。

私は後輩の救急隊員に音を聞こえたかどうか尋ねましたが、彼は何も聞いていないとのことでした。私は一人で車内を確認しましたが、誰もいないはずの車内には、男性が座っている姿がありました。

男性は私に微笑みかけ、こう言いました。

「ありがとう。助かった。」

私はその言葉に驚き、思わず声を上げてしまいました。すると、男性は消えてしまいました。

私はその夜のことは、誰にも話していませんでした。しかし、その体験は私の心に深く刻み込まれ、今でも時々思い出しては恐怖に襲われます。

その後、私は救急救命士として、さらに多くの現場を経験してきました。しかし、その男性の姿は、今でも私の脳裏に焼き付いています。

(後日談)

数年後、私は偶然にも、その男性の家族と再会しました。彼らは、男性が亡くなった後、彼の部屋で奇妙な現象が起きていると話しました。

男性の部屋の窓が勝手に開いたり、物が勝手に動いたりするのです。彼らは、男性の霊が現れているのではないかと恐れていました。

私は彼らに、男性の霊が救急車に乗っていたことを話しました。彼らは驚きながらも、男性が助かったことを喜んでくれました。

私は、男性の霊が救急車に乗っていたのは、私に感謝の気持ちを伝えるためだったのではないかと思っています。男性は、私のおかげで助かったことを、亡き後も忘れずにいたのです。

この体験は、私に救急救命士の仕事を改めて考えさせてくれました。私たちは、ただ命を救うだけでなく、患者さんの心にも寄り添う必要があるのです。

 

救急車の幽霊は、単なる幻覚だったのかもしれません。しかし、私は、男性の霊が本当に現れたと信じています。

その体験は、私に救急救命士としての使命を教えてくれたのです。私は、これからも患者さんの命と心を守るために、精一杯努力していきたいと思っています。